Wraith Rossini
2008年02月25日
21:01
独自仕様カースクリプトの開発当初、俺と某おーじさまとのやりとりは毎日のように続いた。新しい機能が実現されるたびに、不都合が発生するたびに何度も何度も。俺がスクリプトの問題を発見してはバグレポートを送信、おーじはすぐさま修正したバージョンを返信。遅くとも次の日の晩には修正版が上がってくる仕事の早さ。
欲しい機能が実装されるまでにさほどの時間は要さなかった。とはいっても年末にこの作業をスタートさせて3週間はたっていたと思う。
さて、ここからが大変だった。ただでさえ、乗りものは調整できるパラメータが多い上にひとついじれば他のパラメータにも影響が出ることがあり、いきおい調整はひとつひとつ弄ってはテストランして状況を確認し、また元に戻しては別のパラメータを調整し、という気の遠くなるような作業を繰り返すしかなかった。
アクセルを踏んだ時のrpmの上がり方、rpmと連動するギアごとの加速率や水温計の変化ペース、アクセルを抜いたときの切れ込み具合、ブレーキをかけたときの速度とrpmの減り方、などなど盛り込んだ独自仕様の多さで自分の首を絞めた感もある。
けれど。
少し弄ってはその影響を実感し、マシンが速くなっていく過程はとても楽しかった。この頃からテスト走行の休憩で俺がストラダーレから降りるなり「どこで売ってるんですか?」と声をかけられる回数が飛躍的に増えていった気がする。でもそのたびに俺は「まだ売れる段階じゃありません」と伝えていた。だってまだ自分では納得していなかったから。
そう、速くなり始めた頃のストラダーレは都合が良過ぎた。重過ぎず軽過ぎず適度な切れ具合のハンドル、素直なレスポンス、ほぼ滑らず思い描いたラインを簡単にトレースできるグリップ力。
「確かに速い。でもこれは俺のストラトス像とは違う。ただ速いだけのマシンは欲しくない」
多分このまま公開すれば万人が乗りやすく、限界も高い優秀なマシンだったろう。誰もが操りやすく、誰もが手軽に速く走れる車。それはひとつの理想形ではある。でも俺が欲しかったのは乗りこなすこと自体が楽しい暴れ馬。
ストラトスにはもっとクセのある扱いにくい車であって欲しかった。もちろん、俺は実車のストラダーレに乗ったことがあるわけじゃない。もし乗ったことがあるとしてもごく一部を除いて0か1のデジタル入力なSLじゃ本当の意味でのリアルなんて到底無理。そもそもSIMって結構狭いし、アナログなアクセル制御ができない時点でパーシャルなコーナリングなんて無理がある。アクセル連打で擬似的に一定の出力を保つこともできなくはないがちょっと不様だ。
でもSLで可能なことだけでもイメージに近づけることはできる。
100km/hを超えれば小指一本で回るといわれる過敏なステアリング、基本を守って走れば素直でもラフな操作をした途端に牙を向くトリッキーな挙動。
トップドライバーたちに「すべてのコースがカーブだけであるならどんなに乗りやすい車だろう」と言わしめた強烈なクセが足りなかった。乗り難い車ではあるけれど乗りこなせれば速い。トップスピードは控えめでも回頭性の高さでライバルを圧倒する無敵のコーナリングマシン。
そんなイメージに近づけるために調整を繰り返し、時にはだーまさん・kanamekkoさん・アイリスさん・まんじさんといった車好きのフレンドたちにテスト車を乗ってもらっては感想を出してもらい、さらに調整。
最後の方はハンドルが切れるスピードを0.002秒早くして横滑りする時間を0.003秒長く、とかやたらと細かい微調整の連続。エンジン音をrpmに合わせて10段階で変化するようにしたら音声ファイルを読み込むたびに微妙にラグってまともに走れなくなったので、3段階に減らしてコーナーを脱出して吹きあがり始めるあたりで高回転のエンジン音を読み込むように調整していったり、とか。
苦労した思い出は腐るほどある。大まかなグループわけでテストしたバージョンは30種類以上、調整した回数は軽く4ケタに達していると思う。
でも、ほぼ納得できる挙動になった。そしてこのマシンに乗った人たちが「難しいけど面白い車ですよ!」といってくれることが何より嬉しい。
これからはビジュアル性と付加機能の向上が目標だ。
……俺のストラダーレにはまだ先がある。